【実体験】アメリカで働くママとマミートラック…出産当日まで働く国のリアル

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マミートラック、という言葉があります。出産や育児をきっかけに、責任ある仕事や昇進のコースから外れた働き方に移っていくこと。母親(マミー)が乗る、本線とは別の線路(トラック)という意味です。

私は2人の子供をアメリカで出産しました。1人目のときは、なんとか以前と同じペースで走れているつもりでした。2人目が産まれたとき「ああ、これがマミートラックか」と。確実に乗った実感がありました。

今日はその話です。アメリカで出産してキャリアを続けるとはどういうことか。これから出産を控えている方や、復帰したばかりで苦しい方に、こういった現実もあると知ってもらえたらと思います。

出産当日まで働くのが、こちらの現実

アメリカ生活で驚かれることのひとつが、妊婦さんが出産の直前まで働くこと。日本のような産前休暇の概念が基本的にないので、多くの人が予定日ギリギリまでオフィスにいます。

私も2回とも、出産当日まで働きました。

1人目のときは、破水するまで仕事をしていました。2人目はもっと極端です。NST(ノンストレステスト。赤ちゃんの心拍とお腹の張りを測る妊婦健診の検査です)を受けながら、電話で会議に出ていました。そうしたら検査中に異変が見つかって、そのまま大きい病院へ移動してさらに検査をすることになりました。その出ていた会議では「あ、ちょっとなんか今から大きい病院に行くみたいです」とだけ言って電話を切り大きい病院へ向かいました。そしてその日のうちに出産です。

「ちょっと病院に行くみたいです」が、産前最後の発言になりました。直前まで働くというのは、つまりこういうことです。美談でも武勇伝でもなく、区切りを自分で引けないまま、ある日突然FMLA(産休)が始まる。

産後12週間で復帰。でも「元通り」にはならない

アメリカには、日本の育休のような全国一律の有給制度がありません。連邦法のFMLA(Family and Medical Leave Act)が保障してくれるのは、12週間の「無給」休暇と復職の権利だけ。それも、従業員50人以上の会社に1年以上勤めている、といった条件付きです。有給の家族休暇を使える民間労働者は27%(米労働統計局・2023年3月時点)。会社の制度や州によって差はあるものの、産後12週間から16週間くらいで復帰する人が多い印象です。自然分娩か帝王切開かでも体の回復はぜんぜん違うのに、カレンダーは待ってくれません。

このあたりの制度は州独自の決まり事や会社次第の部分が大きいので、就職・転職のときに確認しておきたい項目はこちらにまとめています。

アメリカで働く:就職/転職するときに絶対確認したい福利厚生5つ

2020年6月8日

そして復帰してみると、産む前と同じようにはやはり働けないのです。

数時間おきの搾乳。デイケア(アメリカの保育園)から突然かかってくる「お熱です」の電話。本調子にはほど遠い自分の体。どれかひとつでも大変なのに、全部が同時にやってきます。あの数ヶ月を出産前と同じパフォーマンスで乗り切れる人が、どれだけいるでしょうか。

ナニーという選択肢と、それを選べない家庭

どうしても仕事を優先させたい人が、ナニーさん(自宅に来てもらう保育者)を手配して、何がなんでも(ナニーと赤ちゃん同行させてでも)出張に行く。そういう話を聞いたこともあります。そこまで振り切れば、キャリアは守りやすいのかもしれません。

ただ、その選択肢を取れる家庭は限られています。いちばん大きい理由はお金です。

Care.comの2026年版Cost of Careレポート(2025年11月・親3,000人調査)によると、デイケアの費用は平均で週332ドル、ナニーは週870ドル。平均的な家庭で、年収の20%以上が保育費に消えているそうです。ただでさえ高いデイケア代の上に、さらにナニー代を積むのは、普通の家計にはなかなか無理があります。デイケア費用のリアルは、別の記事で詳しくまとめました。

配偶者の仕事の状況にもよりますが、結局どちらかが(多くの場合は母親が)キャリアをセーブするという状況に陥っていることが多いかと思います。デイケアに通わせながら、熱が出た、風邪をひいた、の対応を引き受けるのは母親側、という家庭は私の周りでも本当に多いです。家族や親族の手厚い助けが近くにあるなら話は別ですが、海外在住の日本人家庭には、なかなか望めない条件ですよね。

「男女差はない」はずなのに、静かにコースから外れていく

アメリカの職場は、建前の上では男女差がありません。産休明けの社員を露骨に差別すれば問題になりますし、「ママだから」と面と向かって言われることも、まずありません。

でも「同じように働けたら」という前提が、すでに成立していない。

出張をセーブしなければいけない。お迎えの時間があるから、と時間の融通が利かない人と、いくらでも飛び回れる人。この2人が並んだとき、昇進の候補として同じようには見てもらえない、当然です。そして私の実感でもあります。

数字にも表れています。IWPR(米女性政策研究所)の2025年のファクトシートによると、母親の賃金は父親の1ドルに対して61.8セント。フルタイムで通年働いている人同士で比べても、74.3セントにとどまります(2023年データ)。個人の頑張りが足りないのではなく、構造の問題もあるのではないでしょうか。数字を見たとき、私はむしろ少しほっとしました。私だけではないんだなと。

葛藤を抱えて働くママさんたちへ

デイケアには、毎日10時間近く滞在する子もたくさんいます。朝いちばんに預けられて、閉まる間際に迎えが来る子。「私、何のために働いているんだっけ」と、お迎えの道すがら考えたことのあるママさんたちは、きっと少なくないはずです。

キャリアを続けたい気持ちも、子供との時間を増やしたい気持ちも、どちらも本物で、どちらも簡単には手放せない。だからみんな、葛藤を抱えたまま、今日もデイケアへ車を走らせています。

マミートラックに乗ってしまった、と落ち込む日もたくさんあります。でもそれは、能力や覚悟の問題ではないのではとも思えます。制度と、費用と、時間。その制約が重なった結果として、たくさんの母親がいま同じ場所に立っています。少なくともここに1人、同じ線路の上にいますよ、ということをお伝えして、この記事を締めたいと思います。

※FMLAの適用条件や産休・育休の内容は、勤務先や州によってまったくの別物です。ご自身のケースは勤務先のHRにご確認ください。


出典(2026年8月調査時点。制度・数値は変更される場合があります):FMLAの概要は米労働省(DOL)。有給家族休暇を使える民間労働者の割合は米労働統計局 Employee Benefits in the United States, March 2023。保育費用はCare.com 2026 Cost of Care Report。母親と父親の賃金差はIWPR The Parenthood Pay Divide(2025年5月)

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