※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・投資・法律に関する助言(アドバイス)ではありません。
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アメリカで働いて給料からSocial Security税を引かれるたびに、「これ、将来ちゃんと返ってくるの?」と思ったことはありませんか。
日本で厚生年金を払っていた期間があり、いまはアメリカで払っている。どちらも中途半端な年数で、どちらからももらえずに終わるのでは——在米の日本人の方なら、一度はよぎる不安だと思います。
調べてみると、この心配の大部分は「日米社会保障協定」という取り決めで解消されていました。ただし、手続きと税金にいくつか落とし穴があります。年金の専門家ではありませんが、日本年金機構とSSA(米国社会保障庁)、IRS、国税庁の一次資料を読んで整理した内容を共有したいと思います。数字はすべて2026年8月時点です。
両方もらえる。足りない年数は「通算」で補える?
日米社会保障協定は2005年10月1日に発効した二国間の取り決めで、日本の国民年金・厚生年金と、アメリカのSocial Securityが対象です。柱は2つあります。
ひとつは二重加入の防止。駐在で派遣される期間が5年以内の見込みなら、派遣元の国の制度だけに加入し、派遣先では免除されます。日本から来た駐在員が日本の厚生年金に残ったまま、アメリカのSocial Security税を払わなくてよいのはこの仕組みです。条件は、派遣前に派遣元国で6か月以上継続して雇用・居住していること。免除を受けるには「適用証明書(Certificate of Coverage)」が必要で、日本側の様式はJ/USA 6、年金事務所に申請します。派遣が延びた場合は、予見できない事情なら最長3年、企業や本人に著しい困難があるなら最長4年まで、両国当局の個別合意で延長できます。
もうひとつが本題の期間通算(Totalization)。
アメリカの老齢年金は、通常40クレジット(およそ10年分)がないと受給資格が生まれません。10年です。日本は2017年8月から受給資格期間が10年に短縮されましたが、それでも10年。両方で5年ずつ働いた人は、協定がなければどちらからも1円ももらえない計算になります。
協定があると、こうなります。
- アメリカ側:米国クレジットが最低6クレジット(通常1年半分)あれば、日本の加入期間を合算して40クレジット相当を満たせる。換算は米国1クレジット=日本の加入期間3か月
- 日本側:アメリカの加入期間を日本の受給資格期間(10年)に算入できる。日本側の最低要件は加入期間1か月以上
ここで大事なのは、通算は「資格があるかどうか」の判定にだけ使われ、年金額には反映されないという点です。年金額は各国とも自国の加入期間だけで計算されます。アメリカ5年・日本5年の人なら、両国から受給資格を得る。そのうえで、アメリカからは米国期間に応じた部分年金(partial benefit)、日本からは日本の加入期間に応じた額。「合算して満額」ではないので、期待しすぎないでください。
2026年のアメリカ年金、押さえるべき数字
SSAが公表している2026年の数字はこちら。
| 項目 | 2026年 |
|---|---|
| 1クレジットを得る収入 | 1,890ドル(年間最大4クレジット) |
| 課税上限(Taxable maximum) | 184,500ドル |
| COLA(物価スライド) | 2.8% |
| 満額支給開始年齢(1960年以降生まれ) | 67歳 |
| 62歳で繰り上げた場合の減額 | 30%(1,000ドル→700ドル) |
| 70歳まで繰り下げた場合の加算 | 年8%(1943年以降生まれ) |
| 満額年齢前の収入テスト | 年24,480ドル超で2ドルにつき1ドル減額 |
クレジットは年4つが上限。1年働けば4クレジット、通算の最低ラインである6クレジットは1年半で届きます。ここを読んで「うちはもう超えている」と気づく方も多いのでは。駐在で5年以上いる方、永住で働いている方は、たいてい気づかないうちに6クレジットを超えているはずです。
満額の支給開始年齢は、1960年以降生まれなら67歳です。62歳から受け取れますが30%減額、逆に70歳まで待てば年8%ずつ増えます。この選択は日本の年金の受給開始とも絡むので、両方を並べて考える必要があります。
「日本の年金があるとアメリカの年金が減る」は、もう過去の話
ここが2026年時点でいちばん大きく変わった点です。
以前のアメリカには、WEP(Windfall Elimination Provision)という規定がありました。Social Security税を払っていない仕事の年金を受け取る人は、アメリカの年金が減額される、という仕組みです。外国の公的年金もこれに含まれていました。日本の厚生年金をもらいながらアメリカの年金も受ける人は、この減額の対象でした。
この規定は、2025年1月5日に署名されたSocial Security Fairness Actで廃止されました。配偶者・遺族年金を減らすGPO(Government Pension Offset)も同時に廃止です。さかのぼって2024年1月分から適用。SSAは2025年7月時点で310万件超の再計算と支払いを終え、2025年4月からは月額も調整済み。SSA自身が「外国の社会保障制度に加入歴のある人」も増額の対象だと明記しています。つまり、日本の年金を理由にアメリカの年金が減ることは、もうないとのこと。
ただ、2025年より前に書かれた日本語の記事には、「WEPで減らされる」という説明がそのまま残っているかと思うので、注意が必要かもしれません。
日本に住みながらアメリカの年金を受け取る
帰国後にアメリカの年金を受け取る場合の要点です。ここは「老後は日本で」と考えている方ほど、先に知っておいたほうがいいことかもしれません。
結論から言うと、老後の居住国が日本でしたら問題なく受け取れます。 SSAは支払いができない国(制限国)のリストを公表していますが、日本は含まれていません。日本の銀行口座への国際直接振込(International Direct Deposit)が使えます。
税金は日本側で。 米国市民でない人がアメリカの年金を海外で受け取ると、原則として給付額の85%に30%の源泉徴収(実効25.5%)がかかります。ただし日本は例外です。租税条約によってこの源泉徴収が免除される国として、SSAの資料に列挙されています。日米租税条約では、年金や社会保障給付は受給者が住んでいる国でのみ課税される決まりだからです。つまり日本に住んでいれば、アメリカの年金はアメリカでは課税されず、日本で申告することになります。
注意点がひとつ。これは「米国市民でない人」の話です。市民権を取った方は海外に住んでいてもアメリカの全世界所得課税の対象なので、扱いが別です。
2年に1回、生存確認が来ます。 海外居住の受給者に郵送される「Foreign Enforcement Questionnaire」です。日本の場合、SSNの下2桁が00〜49なら偶数年、50〜99なら奇数年。返送しないと支払いが止まります。住所変更は必ず届け出を。
my Social Securityは海外からも使えます。 2023年10月から、ID.meの資格情報があれば海外からもアクセスできるようになりました。帰国前に作っておくのがいいと思います。
Medicareは日本では使えません。 SSAの資料に、米国外で受けた医療サービスは原則カバーしないと明記されています。日本に帰るなら国民健康保険が前提です。老後をどちらの国で過ごすかは、老後は日本かアメリカか問題の記事で別途書いています。
アメリカに住みながら日本の年金を受け取る
では逆のパターンはどうなのでしょうか、永住してアメリカで日本の年金を受け取る場合です。
こちらも問題なく受け取れるようです。 海外居住者も日本の年金を受給でき、「海外居住者用年金受給権者届」で住所と海外の金融機関口座を届け出れば、アメリカの口座で受け取れます。
源泉徴収20.42%を条約で止める。 非居住者に支払われる日本の公的年金には、原則20.42%の源泉徴収がかかります(年金額から月5万円、65歳以上は月9.5万円×月数を引いた額が課税対象)。ただし日米租税条約により、アメリカ居住者が受ける日本の公的年金はアメリカでのみ課税される決まり。日本側の源泉徴収を止めるには、支払い前に「租税条約に関する届出書(様式9)」を出します。米国向けには「特典条項に関する付表(様式17-米)」も一緒に。様式は日本年金機構のサイトにあります。届出を出さないと引かれたままになるので、ここは忘れたくないですよね。
アメリカ側では、日本の年金は所得として申告が必要です。年金額を為替換算して申告する作業が、毎年ついてまわります。
毎年、現況届も。 海外居住の受給者は毎年誕生月に、在留証明などを添えて現況届を提出する決まりです。
脱退一時金を受け取ると、通算は使えなくなる
日本国籍の方には直接関係ありませんが、外国籍の配偶者がいる家庭は注意が必要なことがあります。
日本の脱退一時金は、日本国籍でない人が日本を離れるときに、納めた保険料の一部を一時金として受け取る制度です。要件は、保険料納付6か月以上、受給資格期間10年未満、日本に住所がない、出国後2年以内の請求など。計算の上限は、2021年4月以降に最後の納付があれば60か月(5年)分です。
問題はその後です。脱退一時金を受け取ると、その期間は年金の加入期間ではなくなり、協定による通算にも使えません。一度もらったら取り返しがつかない、という種類の選択です。日本年金機構のFAQも、請求前に協定による通算の可能性を確認するよう注意喚起しています。将来アメリカでも日本でも年金を受け取る可能性があるなら、目先の一時金で通算の権利を手放すのは、慎重に考えたほうがいいと思います。
申請はどこでする?
- アメリカに住んでいる人:SSAの事務所か 1-800-772-1213。日本の年金は、日米協定用の申請様式を日本年金機構のサイトから入手して請求
- 日本に住んでいる人:在日米国大使館のFederal Benefits Unit(東京)、または日本の年金事務所(アメリカの年金の代理受理をしてくれます)
- 記録の確認:日本年金機構本部が日本の加入記録を確認して米国の実施機関へ送る仕組み。海外から直接申請する場合は「保険期間確認請求書」を添付
自分の日本の加入記録は「ねんきんネット」、アメリカ側は「my Social Security」で確認できます。年金は何十年も先の話ですが、両方の記録が今どうなっているかを一度見ておくだけで、漠然とした不安はかなり減るはずです。
まとめ
結論として、日本とアメリカで半端に働いた期間は、どちらも無駄になりません。協定で資格を通算し、それぞれの国から加入期間に応じた額を受け取れます。日本の年金があるからアメリカの年金が減る、という心配も2025年からは亡くなりました。
残る宿題は3つだけ。免除を受けるなら適用証明書。日本の年金を海外で受けるなら租税条約の届出。外国籍の家族がいるなら、脱退一時金を安易に請求しないこと。あとは受給年齢が近づいてから考えれば十分かなと我が家では思いました。
繰り返しますが、私は年金や税務の専門家ではありません。資料を読んで整理しただけの記事で、個別の状況によって扱いは変わることもあるかと思います。実際の請求や税務申告は、SSA・日本年金機構と、日米両方に詳しい税理士にご相談ください。
※本記事の数値・制度は2026年8月調査時点のものです。出典:日本年金機構「日・アメリカ社会保障協定」、SSA「Agreement Between The United States And Japan」「Your Payments While You Are Outside the United States(EN-05-10137)」「Social Security Fairness Act」「2026 COLA Fact Sheet」、IRS「Japan Tax Treaty」、国税庁タックスアンサーNo.2884。








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